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本誌の第1号で大橋博司・斎藤正巳の両氏は「左利患者における大脳半球優位の問題」と題し興味ある論文を寄せられたことは読者の記憶に新しいところであろう。近着のLéncéphaleに(1958,No. 6)Jean Lhermitte先生がLe problime de la latéralisation et de la dominance hémispheriqueというrevue critiqueを書いておられるので,早速目を通してみたが,結論は大体Conradなどの見解と大差なく特別に目新しいものではないとしても,先生の御年齢を考えるとき(82,3歳)その衰えを見せぬ知的活動にただ頭がさがるだけである。先生は以前から博識で鳴りひびいていたが,この論文も動物の右利・左利を論じたり,音楽家(楽器による左右両手の重要性の差を顧慮して)・画家の例を引用したりして,その健脳ぶりはまさに一つの驚異である。それだけではない。右の脳半球は左のそれに比し,より器械的な活動に適しており,この意味ではよりサイバネチカルであると表現されるなど,若い者もたじたじである。そして最後にはRobert Wiener(サイバネチックの創始者)の文章を引用し,人間の将来に対するその悲観的な見解に反対して,より楽観的な態度を堅持しておられる。
話は変るが,昨年6月パリで開かれた第28回国際神経病学会は,「小脳」をテーマとして選んだが,90歳になられたAndré-Thomas先生が各宿題報告者のあとで討論(discussion des rapports)を買つて出られたことは,これまた世紀の驚異の一つに数えてよいのではなかろうか。詳細はRevue neurologiqueのTome 98(1958),No. 6に出ている。
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