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統合失調症は種々の遺伝要因に環境要因が重なって発症に至ると考えられている。しかし,発症に至る病因分子病態の解明はまだまだという段階である。病因分子の解明には遺伝学的アプローチが有用であり,これまでも分子遺伝学的研究が果たした役割は大きい。ゲノム解析の強みは,原因か結果かの問題をクリアできることである。多くの場合受精時からすでに持っているので,特定のゲノム多様性や変異が特定の病気の人に多い,あるいは少なければ,何らかのメカニズムで病因として作用している蓋然性が高いと判断できる。この点がエピゲノム解析やタンパク質解析,画像解析,生理学的解など状態を把握する解析と異なる点で,ゲノム解析の長所である。逆に,診断や経過の指標には直接役立たない可能性があるという側面も持つ。
筆者は,精神科臨床から遺伝学の仕事に移り,精神疾患の分子遺伝学に関する研究に携わってもう20年以上になる。始めた頃はDNA配列が分かっている遺伝子も少なく,被検者のDNAシークエンスも簡単ではなかった。しかし,その後,精神疾患でも分子レベルでの解明は飛躍的に進むのではないかと期待を抱かせる技術革新が相次いだ。振り返ると,期待が大きかっただけ失望の連続であった。特に自験データも含めて最初に提示されたポジティブな結果が他の集団で追認できないことが最初の頃は実に不思議に感じた。筆者の研究室ではアレルギー疾患も解析していたので,この不思議な印象は一層深まった。他の集団による結果の再現性という面ではアレルギー性疾患のほうがはるかに容易だったのである。しかし,容易には結果が再現されないことが重要な知見で,アレルギー疾患に比べて統合失調症は表現型と遺伝子の対応が密接でないこと,関係しているゲノム多様性や変異の数が多いことなど,免疫系と脳機能との違いの一端を示していると考えられる。それであっても最近の,特にゲノムワイド関連解析の研究は,困難と言われた統合失調症の遺伝学について着実な知見をもたらしており,統合失調症研究において遺伝学に期待されたものが現実のものとなりつつあることを実感している。
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