書評
―松下正明 総編集 井上新平,内海 健,加藤 敏,鈴木國文,樋口輝彦 編―精神医学エッセンシャル・コーパス2―精神医学を知る
新宮 一成
1
1京都大学大学院人間・環境学研究科
pp.1198
発行日 2013年12月15日
Published Date 2013/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405102620
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日本の精神医学に,根源的な問いの季節というべきものがあった。優れた思索者たちが,対話と観察を唯一の糧として,精神を病むとはどういうことかという問いに挑み続けていた。本書の収録論文たちの年代は,1970年代後半からの10年余りにわたり,操作的診断の思想が精神医学の風景を変えていく直前の,臨床的思考の豊かな成熟を伝えている。
論文には統合失調症の旧称「精神分裂病」がそのまま保存されており歴史を感じさせるが,目次はそのまま1冊の精神医学教科書を見るが如しである。大橋博司「精神症状学序論」,安永浩「精神分裂病の症状」,木村敏「精神分裂病の診断」,藤縄昭/笠原嘉/村上仁「精神分裂病の臨床類型」,臺弘「精神分裂病問題の歴史と展望」,宮本忠雄「言語と精神分裂病」,柴田收一「感情・気分の異常」,広瀬徹也「躁うつ病の経過類型,残遺状態と人格変化」。しかし歴史が感じられるということは,教科書として古びていることと同義ではなくむしろその反対である。
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