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近年の気分障害を巡る状況は大きく変化している。一般社会におけるうつ病の認知度は向上したが,それに伴い誤解や混乱も増している。精神科医療の現場では,気分障害による受診者が急増するとともに,従来のメランコリー型うつ病とは異なる現代型うつ病が増加し,その対応に苦慮する場合が多い。SSRIやSNRIの導入,種々の治療アルゴリズムの開発,認知療法の普及など,治療面での進歩は少なくないが,依然として難治例が存在する。また自殺対策としてのうつ病への介入が大きな課題となっている。このように問題が山積している一方で,気分障害の研究は活発化し,さまざまな領域で新しい知見が得られている。精神科医療に携わる者にとって,気分障害の全体像を捉えなおして知識を整理し,今後の診療に役立てたいという気持ちは非常に強くなっている。このような時代の要請に応えるべく,刊行されたのが本書である。
B5版,二段組,650ページを超える大冊である。内容は,各専門領域のエキスパートによる分担執筆であり,編者が「気分障害のエンサイクロペディアを目指した」というごとく,質,量ともに非常に充実している。冒頭において,混乱しがちな気分障害の概念と用語について,どのように統一を図ったかを編者が明記しており,その原則の下で執筆陣が存分に筆を揮っている。わが国におけるスタンダードな内容を詳述すると同時に,歴史的な内容,必ずしも一般的ではない内容や海外における新しい動向にも十分な説明を加えている。研究面の知見が豊富に記載されていることも特筆に価する。さらに参考文献数がことさら制限されていないため,必要なときは原典にあたることも容易となっている。目次も詳細で9ページを数えるが,お蔭で知りたいことがどこを見れば書いてあるかすぐわかるようになっているのも編者の配慮であろう。
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