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身体精査上も既往歴にも問題のない32歳の非定型精神病の女性が,無けいれん性パルス波電気けいれん療法(ECT)6回施行後に脈の触れない心室頻拍(pulseless VT)を生じ死亡に至った症例を報告した論文(野口剛志,高崎英気:修正型電気けいれん療法施行後に心室頻拍を呈し回復が困難だった1例。本誌55:33-35,2013)は,ECTに携わる者にとって大きな衝撃であった。悲痛な事故症例を公表した著者らの真摯な臨床姿勢と勇気ある使命感には,同じ精神科医として深く敬意を表したい。ECT適応が十分にあり,必要な術前検査も行われており施行には問題ない症例であるが,事故の原因について論文では見つからないままとされている。非常に危惧するのは,これによってECTが「どんなに注意しても最悪の事態は起きる」という「諦め医療」や,「身体面に少しでも疑問や問題があれば行ってはいけない」という「萎縮医療」に向かいかねないことである。そうではなく,症例の施行方法と過程に何かリスク要因や問題点はなかったのか徹底して検証することこそが,今後の安全なECTのために最も重要なはずである。著者らの勇気と使命感に応え,亡くなった患者さんにいささかでも報いられることがあるとしたら,そのような作業しかないと筆者らは考え,本報告を行いたい。
論文には,術前評価,麻酔手技,蘇生処置の内容は不足なく書かれていたが,残念ながらECTの結果を論じるのに決定的に重要なものが記載されていなかった。毎回の発作刺激用量,発作波の形状(高振幅棘徐波と発作後抑制の有無)である。さらに,致死的不整脈の発生を考えれば,通電前後と通電中の心電図の検討も当然必要である。これらなしに治療効果や副作用の検討はできない。この点の浸透が国内でいまだ進んでいないことは,ECT臨床における重大な問題である。これらはいずれもパルス波治療器(Thymatron System Ⅳ)の発作時モニター紙に記録されている。そこで筆者らは著者からこれらの提供を受け,著者の了解の下でその検討を行った。3回目不発時以降の刺激用量の弱さ(上げ幅の少なさ),5回目以降の発作波がやや不十分ないし不十分(表)という問題点が見出されたが,これらはVTに直接関連しないと思われた。一方,発作中から発作後の心電図モニター波形には,より詳細に検討したほうがよいと思われる個所があった。
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