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大原健士郎先生は森田療法の第一人者で,自殺をはじめ多くの研究ですぐれた業績を発表され,精神科医の養成についても厳しく,正直で正論を吐く異色(異能の?)の先生と承知しているが,それよりも,その生き方,人生観やご家族(特に奥様との死別やご子息夫妻やお孫)との交流などはご著書を通して強く印象に残っている。先生は東京幼年学校に進むが終戦で目標を失い,医学部,精神科に進むが,肺結核での療養(献身的な後の奥様の看護),米国留学,奥様への献身的な看護,ご子息の研究中の火傷,先生自身の大病の際のご子息夫婦やお孫さんとの交流など,これらがすべて先生の生き方にいかに影響していたか,いかによい方向に考えを持って行かれたかが悲しみや苦しみの中に記録に残され,本書ではさらに,多くの接した患者を通して,いかによい方向に持っていくかが幸福論という枠で記されており,幸福論という難しいものととらえずにいかに事態をよい方向に持っていくべきかという方法や考え方の指針が著者の言う幸福論の中で描かれているととって気楽に読まれるのが良いであろう。
本書の構成は第1部が,幸福の輪郭〔幸福とは何だろう〕,第2部は幸福の処方箋〔人はみな幸福になれる〕となっており,第1部では幸福論の紹介(哲学,教養としての幸福論,分子生物的な面にもちょっと触れ),第2部では,具体例を挙げて説明しており,ここではまず森田療法創始者の森田正馬博士の「人間は生まれながら生の欲望を持っている」という「生の欲望」について紹介されており,要約すると①人は長生きしたい。病気になりたくない。②人はほめられたい。軽蔑されたくない。③幸せになりたい。出世したい。④知識を深めたい。勉強したい。⑤向上,発展をしたいという欲望を持ち,①は先天性のものであるが,②以下は二次的なものであるという。森田療法の様式,治療期間中は一貫して気分は「あるがまま」に受け入れ,やるべきことを目的本位,行動本位にやることが求められ,それにより行動が健康人らしくなり,やがて心も自然に健康人らしくなるという。
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