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わが国のドラッグ・ラグの象徴的存在であった抗精神病薬クロザピンが2009年に日本でも承認されて,3年以上の月日が流れた。通常診療内でも治験なみに行われなければならない使用同意文書の取得や頻回な血液モニタリング,使用施設基準の厳しさやその準備の煩雑さなどから,当初なかなか普及しなかったものの,ようやく最近になって,使用施設数や処方数がかなり増加してきたと聞く。そして,クロザピンを使用した多くの医師から聞かれる感想は一様に,「今までの抗精神病薬とは,やはり効果が違う」という印象である。一方で,無顆粒球症や心筋炎・心筋症などの重篤な副作用の他にも,本当に随伴症状の多い薬剤であると感じることも多い。流涎,眠気,過鎮静,起立性低血圧,便秘,麻痺性イレウス,食欲亢進,体重増加,糖脂質代謝障害,けいれん,嚥下性肺炎など枚挙にいとまがない。にもかかわらず,主治医,患者本人,家族が共通して,今まで使用した薬剤の中で最も有用性が高いと感じることがしばしばである。
これだけ有用な薬剤の日本への導入がなぜこれほど遅れたのか。その理由はいくつか挙げられるが,単に日本の治験制度上の問題,あるいは厚生労働省の認可体制の問題だけでは片付けられないと感じる。クロザピンの治験を進めていた製薬会社の合併問題などが重なって,治験自体が滞ったことも事実であるが,わが国の精神科医の中には,わざわざこれほどリスクの高い薬剤を導入しなくても良いのではないかという意見が一部にあったことも事実である。しかし,患者・家族団体からの厚生労働省に対する熱心な働きかけが治験推進の大きな原動力になったと聞く。小生も日本精神神経学会と日本臨床精神神経薬理学会それぞれの委員として,クロザピン承認に関する厚生労働省PMDAとの会議に出席する機会を得たが,副作用で万が一にも患者が死亡する可能性のある薬剤の導入については,国(当局)として非常に慎重な姿勢であったと記憶している。ちょうど抗がん剤のゲフィチニブ(イレッサ®)の問題がクローズアップされた後という時期的なことも関係していたのかもしれない。いわば,リスクの高い薬剤については医師の裁量権に任せておくことは危険であり,国として厳格な管理下に置かなければならない(言い換えれば,国が医師を守ってやる)という態度であった。
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