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間もなく,わが国のアルコール医療創生から50年目の節目を迎える。日本のアルコール医療は,故河野裕明,堀内秀両先生が中心となって1963年国立久里浜病院(現国立病院機構久里浜医療センター)に開放管理のアルコール依存症の専門治療病棟を設置し,入院3か月と期間を限定した集団でのプログラム治療を行ったことに始まるとされる。それ以前のアルコール依存症患者に対する精神科医療は,依存に対する特別の治療技法を持たなかったこともあり,社会や家族に迷惑をかける患者を隔離収容することが中心となっていたようである。1975年には,久里浜病院でアルコール中毒臨床医研修事業が開始され,ここで学んだ者が日本各地で同様の集団のプログラム治療を実践し,「久里浜方式」として広く知られるようになった。また,最近では,中年男性を中核群としながらも,患者層は女性,若年,高齢者と多様化し,それぞれの特性に応じたプログラムも行われるようになり,治療プログラムには認知行動療法も幅広く取り入れられてきた。多少の変遷はあったものの,わが国でのアルコール医療は専らアルコール依存症患者,特にその中でも比較的重篤な患者に対して断酒を唯一の治療目標とする治療が行われてきた。一方で,有効な薬物治療も新たに出現しないまま治療成績に大きな改善はみられず,長期の完全断酒率は20%程度とされている。
2003年に行われた全国調査では,わが国のアルコール依存症患者は約80万人,1日に6ドリンク以上(1ドリンクは純アルコール10グラムを含むアルコール飲料で,6ドリンクは約日本酒3合に相当)の多量飲酒者は約860万人に及ぶと推計されている。最近では,図に示すようなアルコール使用障害に対する用語を世界保健機関(WHO)は推奨しており,「乱用」,「誤用」などは使われなくなってきている。「有害な使用(harmful use)」は依存症の手前の段階で,すでに多量飲酒による心身への健康被害がありながらの飲酒,さらに「危険な使用(hazardous use)」は現在のままの飲酒を続けていると将来健康被害が及ぶ可能性の高い飲酒とされる。最近公表された「健康日本21(第2次)」では,生活習慣病のリスクを高める量として1日当たりの飲酒量が男性4ドリンク以上,女性2ドリンク以上とされており,今後はこれが危険な使用判定の目安になる。これに当てはまるものは,国内にざっと2,000万人程度であろうか。
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