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はじめに
「内因」という言葉はおそらく,19世紀に入ってから精神病の「外因」が不明であることを第一に意識して用いられ始めたものと思われる(当時の心身二元論のもとで成立する「外因」は,感染症などの身体疾患や外傷などのような身体的障害が,心あるいは精神の外から影響を与えているという,いわば素朴な意味である)。Kraepelinが1899年に第6版の教科書で早発性痴呆,躁うつ病という二大疾患を明確に提示したときに,「(これらの精神病が)内部に起因していることを疑うことはできない」と述べたのも,まずこの意味であっただろう1)。しかし,Kraepelinは一貫して精神病の「本来の原因」は遺伝的素質であると考えており,精神病の病因の解明が進めば結局はphysicalな原因が発見されるものと想定していた4)。つまり内因という語の使用は,あくまで素朴な意味で外部に原因が見出せないことを表現する意図によるもので,真の意味での心の内部に原因があるのか,あるいは「外的」事象だけに因果性を帰属させられるのかという問題は不問に付していたのである。むしろ,当時の精神医学の実際の思考法としては「未だ見つかっていない身体的原因」を含意させて使用していたというのが実情ではないかと思われる。後に,Schneiderは,後天性精神異常のうち①「一次的脳疾患の結果」,②「他の疾患の経過中に起こった脳疾患の結果」の中に含められない,精神分裂病と躁うつ病と癲癇の「三大群」が内因性の疾患であると整理した。Schneiderはまた,特に分裂病的な(現代では統合失調症的な)性格変化やうつ病は異常反応であることもあるので,変化の精神的原因を探索しなければならないと注釈し,(外因だけではなく)心因が排除されていることが要求されるとあらためて明文化している7)。要約すると,内因性とはまず外因の排除であるが,同時に心因の排除である。なお,このように記述するときの「外」と「内」は多分にあいまいに定義されており,Jaspersはより原理的に,二者を相互作用する契機的なものと規定してその諸相を論じている2)。
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