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2011年10月29,30日,東京日仏会館において,日仏医学会(東京女子医科大学名誉教授岩田誠会長)の主催のもとで日仏医学コロック(加藤敏大会長)が開催された。2004年に「うつ病の今日,フランスと日本の比較」と題して「日仏医学コロック」と銘打った会議を東京で開催して以来,第1日を一般医学部門,第2日を精神医学部門のテーマにして行っている。2005年パリで「神経症」,2007年東京で「精神医学から見た暴力」,2009年パリで「創造性と精神医学」をテーマに交互に行われた。今回は,3.11東日本大震災の影響で開催が危ぶまれたが,双方スタッフの熱意により,多くのフランス人の演者の先生にいらしていただき,コロックを開催することができた。1日目のテーマは,「医療・福祉におけるロボット工学 日仏の最先端技術」である。外科を中心にした医療分野においてロボット工学のはたす役割について日仏の最前線の臨床家,研究者によって議論がなされた。本稿では2日目の精神医学部門を中心に紹介する。今回のテーマは「自閉症・アスぺルガー症候群」である。英米圏とは一線を画したフランスの学者による発表は日本ではなかなか聞けない興味深いものであり,精神科医,臨床心理士,哲学,教育などの分野の多くの方が参加された。
セッション1では市川宏伸氏(東京都立小児総合医療センター)が,長年の経験から広汎性発達障害(PDD)とアスペルガー症候群の実態と包括的な精神医学的治療について述べ,子どもに合った環境整備,学年が進むにつれ社会生活技能訓練(SST)が必要であると結論した。また,山崎晃資氏(臨床児童精神医学研究所)は,アスぺルガー症候群の就労問題を扱い,それは長い経過の中で試みてきた療育・教育・治療の成果を検証する機会である,と語った。セッション2では,Jean Garrabé氏は自閉症の歴史と分類,特にフランスの小児思春期精神障害分類(la Classification Française des Troubles de l’Enfance et de l’Adolescence)について概観した。その2010年版は,特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)をより明細化することを提案し,さらにⅠ軸(臨床所見)に対してⅡ軸(環境ないし遺伝的要因)を加えており,成因におけるⅡ軸のはたす役割を重視していることに論及がなされた。神尾陽子氏(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所児童・思春期精神保健研究部)は日本の発達障害のある子どもの問題に触れ,1歳6か月健診でのPDD早期発見と,全国学童対象の大規模調査,そしてPDD成人の長期予後調査の結果を紹介し,精神医学的治療的介入の意義や支援システムについて提案を行った。
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