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はじめに
近年,少年問題の深刻化と低年齢化がよく話題にのぼることは周知の通りである。そのうち,広く報道され,社会にインパクトを与えた事件の一部について,被疑者の少年が広汎性発達障害pervasive developmental disorder(PDD)と診断されるケースが散見されるようになった。広汎性発達障害は教育界においては特別支援教育の中心的テーマとして広く知られるようになったが,司法関係者の間では上記のような事件を契機としてPDDという障害が認識されはじめた。また,刑事事件の中にも被告人がPDDと診断されるケースも現れるようになったが,少年事件の場合と同様,通常とは異なる奇異な動機や犯行の態様がしばしば認められている2,3)。さらに最近では,家庭裁判所の扱う家事事件でも本障害を考慮すべき事例の存在に気づかれるようになり1),精神科医,捜査関係者,弁護人にとどまらず社会が注目するようになった。
その一方,精神鑑定が行われた事例では,広汎性発達障害を持つ被告人の非行・犯行の動機や,その時の精神状態を見きわめ,裁判官に対して障害の特性とともにわかりやすく説明するのは困難なことが多い。また,社会性の障害の影響により,捜査段階や法廷の言動が“反省の情がない”などの誤解を受けやすい。本障害の影響により,裁判上の有利不利を意に介しない供述をすることが多く,調書の内容も事実とは異なり,捜査側の誘導(意図的か否かを問わず)に沿った供述となっているケースが少なくない。このような状況にあるため,適正な司法判断がなされるためには,精神鑑定において精神科医がPDDの障害特性を踏まえ,非行・犯行に至る経緯について合理的で説得力のある説明や解釈をすることが不可欠となる。本論では,この目的にとって重要と思われる問題や関連事項を中心に取り上げた。
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