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はじめに
2002年3月15日,「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案」が閣議決定された。この法案の最大の論点は,対象者の鑑定に関し,第37条で,「裁判所は,対象者に関し,精神障害者であるか否か及び継続的な医療を行わなければ心神喪失又は心神耗弱の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれの有無について,精神保健判定医又はこれと同等以上の学識経験を有すると認める医師に鑑定を命じなければならない」と規定されている点である。これによって,従来の責任能力鑑定に加えて,「継続的な医療の必要性」と「再び対象行為を行うおそれの有無」についての判断が医師に求められるようになる。
英国の司法精神医療の歴史的変遷をみると,わが国と同じように責任能力のみを根拠に精神障害者を刑事司法から精神医療システムへ移した時期があったことがうかがわれる。しかし,精神医療の進歩によって,精神障害が治療可能な時代に入ってくると,責任能力よりも医療の必要性という視点が強調されるようになってきたことがわかる。
また,英国の精神保健法の第41条では,重大な他害行為を行った精神障害者の制限命令に関して,「犯罪の'性質,犯罪者の前歴,再犯の危険性を顧慮する」という要件があり,精神科医は対象者がこの要件を満たすかどうかについて裁判所から意見を求められる。また,治療施設においては,患者が退院後に地域で安全に社会生活を送れるかどうかを判定するために,さまざまな職種の者がリスク・アセスメントを行っている。
わが国では,これまで本格的な司法精神医療を経験していないことや保安処分論争時代の後遺症から,この新しい医療制度に対して拒絶反応を示す者が多いのは仕方がないことと思われる。本稿では,司法精神医療の先進国である英国のシステムの歴史的変遷を概観しながら,わが国の司法精神医療における精神鑑定の新たな役割について考察していきたい。
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