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はじめに
無床総合病院精神科の危機について語られることが最近目立ってきている。無床総合病院精神科の診療特徴が人的な不足などの問題を生じさせ,それがある時点を越えると危機的な状況に発展してしまう。本稿では,危機的な現状を検証し,その状況に対する臨床現場での取り組みを紹介し,今後の課題を論じてみたい。
有床総合病院精神科の施設数と精神科病床数についてみてみると,日本総合病院精神医学会の調査では,2002年度は272施設,21,734床であったが,2008年度は239施設,17,319床へと減少,すなわち精神科病床数は2002年度から比べると2割減少している。調査後も休止したり診療をやめたりする病院が続いている。地域の中核病院などの総合病院精神科病棟が医師不足などから閉鎖・縮小されたり,精神科外来そのものが総合病院から消失しており,わが国の総合病院精神科はこれまでにないほど危機的な状況にさらされている5)。日本病院団体協議会の調査によると,2007(平成19)年度の病床休止もしくは返還は,産婦人科,小児科に次いで精神科が3番目であった。
無床総合病院精神科の場合はもっとも減少が顕著である。日本総合病院精神医学会無床総合病院精神科委員会の調査によれば,2009年8月現在,精神科常勤医のいる無床総合病院精神科の病院数と常勤医数は178病院,268名である(シニアスタッフ3名以上の大学病院など除く)。調査2)を始めた1999年より122病院が減少(41%)している。2008年度は,10病院が閉鎖となっている。
厚生労働省の調査では,精神科専門の医師数は微増しているが,この10年で診療所と精神科病院に勤める医師数は増加したのに対し,総合病院の医師数は1割減となっている。
減少の原因は複合的である。病院間では病院統廃合がまず挙げられるが,病院内では精神科医療の診療報酬が低く抑えられているため,診療科間の比較では不採算とみなされやすく,経営の観点から閉科となることが挙げられる。最大の理由は,多忙さにある。インセンティブのない多忙さは忌避され,常勤医の異動(開業など)に伴い欠員が生じた際に赴任を希望する精神科医がおらず,結果として非常勤医による外来診療をしばらく続けた後に閉鎖となるパターンが多い。診療報酬改定により,自殺未遂で入院した患者を精神科医が診察すると診療報酬が加算されたり,がん対策基本法で緩和ケアチームに精神科医の関与が求められるなど,精神科医の役割は増しているが,その主体となる総合病院精神科医自体が減少しているため,ニーズに応えられないのが現状である。
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