巻頭言
多元主義的精神医学という道
村井 俊哉
1
1京都大学大学院医学研究科脳病態生理学講座(精神医学)
pp.208-209
発行日 2010年3月15日
Published Date 2010/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405101582
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一昨年,人文系の出版社から翻訳の依頼をいただいた。原題は「The Concepts of Psychiatry」で,総論的な話のようだから,バイオ・サイコ・ソーシャル(生物・心理・社会)のすべての側面について慎重に気配りした本かな,と最初は思った。それほどおもしろい本ではないだろうと予感しながらも,なんとなく依頼を引き受けてしまった。ところがこの私の予想は,いい意味でも悪い意味でも裏切られた。序の翻訳にとりかかりはじめてすぐに気づいた。あれ,これはバイオ・サイコ・ソーシャルじゃないぞ,それどころが,その批判じゃないか,これはおもしろい! もともとは教室の若手の先生方の加勢を得て翻訳するつもりでいたのだが,全部訳してみたいとの誘惑に負け,翻訳はひとりで行うことにした。結果としてこの1年は,半年の教授不在期間を含む本当に慌しい業務の合間をぬってこの大変な本の翻訳に忙殺された。でも,それだけの価値はあった。
さて,ここまでこの巻頭言を読まれた精神科医の皆様の中には,私が述べていることをいぶかしく思われるかもしれない。今の時代にバイオ・サイコ・ソーシャルを批判するような,そんな愚かであまのじゃくな精神科専門医がいるのか,専門医試験をやり直すべきだ,と。それぞれの患者の生物学的側面だけでなく,心理的側面や社会的側面にも注意を払うべきことは,現代精神医学の常識中の常識のエチケットだ。実際,順調にスタートした専門医制度の面接試験では,口頭試問で面接官の質問に上手に答えていくには,準備したレポート症例の問題点を,バイオ・サイコ・ソーシャルの3つの側面に分類してしっかり頭に入れておくことこそ必勝法である。
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