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はじめに
近年,リストカットなどの自傷行為は,学校保健における主要な問題となっている。わが国の中学生・高校生における自傷行為の生涯経験率は8.0~14.3%2,4,10)に及び,その約半数に10回以上の自傷経験があるといわれている10)。マスメディアが,養護教諭が児童・生徒の自傷行為への対応に苦慮している実情を取り上げることも多くなった8)。こうした状況の中で,精神科医や臨床心理士といった専門家が,養護教諭から自傷をする児童・生徒の治療や学校での対応についての助言を求められる機会も,確実に増えているという印象がある。その意味では,専門家の側も,学校における自傷行為の実態や,日々の対応の中で養護教諭がどのような困難と遭遇しているのかといったことを,ある程度把握している必要があるといえるであろう。
ところで,養護教諭を情報源とする,学校における自傷行為の実態調査としては,すでに,文部科学省が日本学校保健会に委託して実施した,「保健室利用状況に関する調査報告書 18年度調査結果(以下,保健室利用状況報告書)」7)がある。その調査は,計約1,100校の公立学校のうち,小学校の9%,中学校の73%,高等学校の82%で在校生の自傷行為が把握されていることを明らかにしており,学校保健における自傷行為の実態に関する基礎資料として重要な価値がある。しかし残念ながら,養護教諭が自傷をする児童・生徒の対応に際してどのような困難を感じているのかが読み取れるデータに乏しく,その点では不十分な資料といわざるを得ない。
養護教諭は,児童・生徒の自傷行為への対応に際して,いかなる困難に遭遇しているのであろうか? この疑問を明らかにするために,我々は,養護教諭を対象として自記式質問票による調査を行い,児童・生徒における自傷行為の実態と対応に際しての困難について検討を行った。よって,ここにその結果を報告するとともに,自傷をする児童・生徒への対応に際して養護教諭が遭遇する困難について,若干の考察を行いたい。
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