書評
―福田正人 著―もう少し知りたい統合失調症の薬と脳
臺 弘
1
1坂本医院
pp.404
発行日 2009年4月15日
Published Date 2009/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405101408
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著者は精神科医として脳機能の活動的な研究者であるが,学生や研修医の実習には日常臨床に即して共に学ぶ仕方を強調する人である。この本は,それを当事者や家族,福祉や医療の仕事に携わっている人たち,教育・心理の分野で働く仲間にも広げたいという気持ちから書かれたもので,患者の身に即して書かれているのが尊い。精神病は病識がないのが特徴だといわれるほどに相互理解が難しいものだが,それをなんとか取り戻したい。本書は目次に見られるように,薬が効くとは,薬を止められるか,いつまで飲むのか,薬の効く仕組みは,生活が下手なわけ,と進む。各章は雑誌に連載された内容が下敷きになっていて,それに続いて,総論的な解説で,総合失調症の脳の仕組み,診断と治療の基礎知識,脳の働きとこころ,光でこころを見る(著者が開発にかかわった脳検査)の諸章がある。
精神科の薬の効き目は飲んでみないとわからない。病原体に対する抗菌剤などと違って,妄想が薬で消えたとしても,治ったからと薬を止めると再発しやすい。評者は初発患者には一応薬を1年間飲んでもらってから止めて,薬なしの1年間も無事なら治療終了とするという姑息な方針をとっているが,服薬10年間で妄想が消えたと喜んでいたら,「先生が治ったというから」と患者に断薬されて,3か月後に大妄想を再発して入院した苦い経験もある。本書には,薬の効果が脳のどの部分にどのような働きをするかについて,神経伝達物質にかかわる作用であると説明されているが,薬効は患者の個性,経歴,環境などにもかかわる複雑な作用だから,臨床の実際はなかなか難しい。
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