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本書はイエール大学医学部チャイルド・スタディ・センターのスタッフが編集して,アスペルガー症候群に関する最新の知見をまとめたものである。「はじめに」はアスペルガー症候群のまさに生みの親であるハンス アスペルガーの孫のマリア アスペルガー フェルダーが執筆しており,祖父の回想とともにその臨床と研究に対する真摯な思想を紹介している。本書は次の5部から構成されている。
第Ⅰ部はアスペルガー症候群の行動面に焦点が当てられ,第1章:アスペルガー症候群の診断をめぐる問題,2章:アスペルガー症候群の神経心理学的機能と外的妥当性,3章:アスペルガー症候群の運動機能,4章:アスペルガー症候群と高機能自閉症における社会言語使用,から成り,主に診断上の議論が概観されている。第Ⅱ部はアスペルガー症候群に関する遺伝学的・神経心理学的研究を中心に据えており,5章:アスペルガー症候群は家系内に集積するか?,6章:自閉性障害とアスペルガー症候群の神経機能モデル,7章:高機能広汎性発達障害の精神薬理学的治療,から構成され,最近話題になることが多い広義自閉症表現型(broader autism phenotype)や特に進歩が著しい脳(機能)画像による知見などが紹介されている。第Ⅲ部は関連する診断概念に焦点が当てられ,8章:非言語性学習障害とアスペルガー症候群,9章:アスペルガー症候群の特異性とは何か?,10章:児童期のシゾイド・パーソナリティ障害とアスペルガー症候群,から構成され,非言語性学習障害その他の関連障害との概念の異同を扱っている。特にウォルフによる子どものシゾイド・パーソナリティ障害の記述は読み応えのある内容となっている。第Ⅳ部では,アスペルガー症候群を有する青年と成人に対象を絞って論じており,11章:アスペルガー症候群の子どもおよび青年の評価をめぐる問題,12章:アスペルガー症候群の人々に対する治療・介入の指針,13章:青年期および成人期のアスペルガー症候群の人々,から成っている。13章はタンタムによるもので,彼の豊富な臨床経験と研究データからこの障害を持つ青年と成人に関する貴重な見解が紹介されている。第Ⅴ部はアスペルガー症候群の研究と臨床的実践に関する思慮に富むいくつかの観点が紹介されており,14章:アスペルガー症候群の分類をめぐる考え方,15章:アスペルガー症候群に関する研究の過去と未来,16章:親による手記,から成っている。15章はウィング自身による執筆であり,本書を通読したうえでその内容を要約し,アスペルガー症候群の今後の方向性について自説を展開している。
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