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成人期の全体像
高機能広汎性発達障害は,今日わが国において,医療,教育,福祉,さらには司法の大きな論議を引き起こしており,筆者はこれをアスペルガー問題と呼んできた7)。それらは,乳幼児健診,子ども虐待,特別支援教育システム,不登校,児童の触法行為と矯正システムなど実に広範にわたっている。
特に青年期,成人期をめぐる問題としては,就労や成人後の処遇をはじめとして,高機能広汎性発達障害の親子例,特に母子例の問題1,8),これまで他の疾患の診断で全く不適切な治療を継続して受けてきたという誤診例の問題,さらに成人期の診断の問題,また成人期に至って初めて発達障害の診断を受けた者への処遇の問題など,どれも広範囲かつ深刻な論議が避けられない。特に診断をめぐる問題は重大である。従来の精神医学は青年期以後の患者に,発達歴を丹念に取るという習慣を持たなかった。近年,成人の診察を行ってきた精神科医が,フォローアップしている患者について発達障害の可能性について初めて真剣に検討をするようになって,長期間にわたってたとえば非定型的な統合失調症として服薬を続けてきた者の中に,少なからずの割合で高機能広汎性発達障害者が存在することに気づくようになった。この問題は,恐らく精神医学における診断学体系の見直しにまで拡がる可能性がある。成人になって初めて診断を受けることになった患者への処遇について,今のところ良い答えがない。統合失調症への対応と同様の処遇のみでは無理があり,しかし,児童精神科医は押し寄せる幼児期から青年期の患者への対応で手いっぱいで,成人期の患者への対応をする余裕がない。診断が遅れたグループにおいては2次的障害も強く,被害念慮,社会的孤立,時としてひきこもり,非社会的傾向,時として攻撃的で反社会的姿勢などを抱える者も少なくなく,対応には大きなエネルギーを要する。
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