書評
―熊野宏昭,久保木富房 編,貝谷久宣 編集協力―パニック障害ハンドブック―治療ガイドラインと診療の実際
笠井 清登
1
1東京大学精神神経科
pp.1135
発行日 2008年11月15日
Published Date 2008/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405101323
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パニック障害の正しい知識と治療指針の普及に向けて
パニック障害は,青天の霹靂のように生じるパニック発作で初発し,その自覚症状は動悸,息苦しさ,胸痛等の循環器・呼吸器症状が主体であるため,精神科や心療内科ではなく,内科や救急外来を初診する場合が圧倒的に多い。また,「パニック」は一般的な外来語として「精神的に取り乱す」といった意味で用いられているため,パニック障害の病態を一般の方はもちろん,医師ですら理解していないことがまれではない。しかし,パニック障害は,生涯有病率が一般人口の数パーセントと非常に頻度の高い疾患であり,すべての医療従事者に正しい知識と治療の指針を普及させることが必要である。このハンドブックは,そのような主旨から作成されたが,結論を先に申し上げると,大成功の書であり,その目的を達成するに違いない。
本書は,心療内科・精神科・臨床心理の第一人者が結集し,生物―心理―社会的な見地から非常にバランスよく記述されている。いわゆるEBM(evidence-based medicine)の羅列だけでは,実践知とならないこともあるが,本書はもう一つの“EBM”(expert/experience-based medicine)が随所にちりばめられており,その意味でも大変バランスよく,実践的である。私は編者・編集協力者の方々を個人的によく存じ上げているが,彼らは常に集い,議論し,最新情報に敏感であり,非常に科学的で実践的なバーチャル研究所を形成している。本書の内容に,信頼性・一貫性を感じるのはそのためであろう。
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