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はじめに
1981年,Wing19)はAsperger1)の「児童期の自閉的精神病質」に修正を加え,「精神病質」が反社会的行動をイメージすることを考慮して「アスペルガー症候群」という新たな用語を提案した(VolkmarとKlin18))。その後,アスペルガー症候群に関する著書や論文が急増し,臨床の現場でもアスペルガー症候群と診断される例が急激に増えている。今や少しでも「変わった人」がいると安易にアスペルガー症候群としてしまう傾向さえある。アスペルガー症候群と診断された50~70歳の人や家族がセカンド・オピニオンを求めて筆者の外来を訪れてくることが多くなったが,これまでの診断・治療の経過を訊ねてみると,発達歴も聴取されずにきわめて短時間の診察で診断さている例や,「医学的治療はありません」と冷たく突き放されている例が少なからずある。
Wing21)自身が「パンドラの箱を開けてしまった」と述べているように,アスペルガー症候群は,Wing19)の1981年当初の意図から逸脱し,予想もしなかった方向へと議論が進み始めた。彼女は,「この症候群の性質を最初に考察した者としていうならば,本来私が考えていた目的は,この症候群が自閉症スペクトラムの一部であり,他の自閉性障害と区別される明確な境界線はないことと,その可能性が強いことを強調するという点であった。しかし,その後さまざまな研究者によって,アスペルガー症候群と自閉症は異なる障害であるという考え方が強くなっている。これは私の意図してきたこととは正反対である」21)と明記している。アスペルガー症候群の診断が乱発される最近の風潮に対して,筆者にはある種の違和感があり,「確かにアスペルガー症候群は魅力的な概念ではあるが,多くの臨床医がいうほど多いものとは考えられないし,DSM-Ⅳ-TRやICD-10の診断基準によって診断分類されるとは到底思えない」と考えてきた。特に,成人期になって初診する症例を,どのようにして診断し得るのかはさらに検討すべき問題である。
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