「精神医学」への手紙
労災問題を通じて,働く人々のメンタルヘルスのさらなる向上を
松浦 健伸
1
1石川勤労者医療協会城北病院精神科
pp.616
発行日 2008年6月15日
Published Date 2008/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405101227
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「精神医学」2007年12月号において,労災適用の問題について5人の方のオピニオンが掲載されました。働く人々の自殺問題対策が焦眉の課題になっている時代の反映だと感じながら,それぞれを非常に興味深く読ませていただきました。その中に黒木先生の論文「労災をめぐる訴訟の動向」も掲載されています。黒木先生は,この分野のリーダーで,私も先生から随分勉強させていただいていると思っている1人です。ただ今回の論文で,裁判の現場というのは独特の価値ややり取りのあるものと思いますが,少し疑問を抱く点があり,投稿させていただきました。
今回の先生の論文をやや乱暴ですが,私なりにまとめますと,3事例を通じて,裁判所は,本人説にのみ基づき本来の業務起因性の考えから逸脱し,臨床の考え方や国際分類とも相容れないと言われているように思われました。裁判所(C電力事件名古屋高裁)1)は「(業務起因性とは)単なる条件関係ではなく,業務と疾病との間に相当因果関係が認められる」ことと言い,相当因果関係とは,「当該業務が傷病発生の危険を含むと評価できる場合にそれがあると評価される」と述べています。その危険については,「その程度は一般的,平均的な労働者すなわち通常の業務につくことが期待されるものを基準として判断し」といい,平均的な労働者とはさらに「特段の職務の軽減を要せず,当該労働者と同種の業務に従事し遂行することのできる程度の心身の健康状態を有する労働者を基準とすべき」としています。ですから,「平均的な労働者」の中には,多様な脆弱性が想定されているものの,働きが平均であればよいということのようです。
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