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前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia;FTD)は,3番目に多い変性性認知症というだけでなく,近年は長年うつ病で経過した後に発症したと思われる「移行例」が多く報告されるようになり,主症状である社会性低下,脱抑制,常同行動,自発性の低下など特徴的な前頭葉症状は,高齢者の精神科臨床にとって注目すべき症候といえます。一方,パーキンソニズムもまたレビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies;DLB)の中核症状としてのほか,抗精神病薬への過敏性(neuroleptic sensitivity)を示す症候として,正確な診断のために見逃せない徴候ですが,この両者が同時に認められる状態はきわめて限られると思われます。その意味で,FTDがパーキンソニズムを呈したとする80歳男性の症例報告論文(長谷川浩,朝倉幹雄,中野三穂,他:前頭側頭型認知症にパーキンソン症候群を合併した1例.本誌 49:1129-1132,2007)を注目して拝読しました。
論文では,パーキンソン症候群はrisperidone 3mg投与後に生じたものの,0.5mgに減量後も増悪し,その後も転倒と嚥下障害が悪化したと記されています。抗精神病薬が「引き金」になった可能性はあるとしても,論文も示唆しているように,この経過から薬剤性は否定的です。かといって,特発性かどうかもはっきりしません。ただ,私たちの臨床実感からいって,FTD症例は(後期を除き)むしろ抗精神病薬に「強い」傾向を持ち,高用量を投与しても周徊や物品収集などの保続的行動,逸脱行動をなかなか抑制できない代わり,パーキンソニズムもきわめて少ない印象があります。薬剤性かどうかを問わず,論文のように重症で進行性のパーキンソニズムがFTDに合併し得るだろうかと感じ,パーキンソニズムを進行させる他の疾患の可能性があるのではないかと疑念を持ちました。そして臨床経過と画像所見から,重要な鑑別疾患として進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy;PSP)を検討する必要があると考えました。
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