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発達障害を心配してクリニックを受診しようとすると,半年,1年の待機があると言われたということを耳にする。時間をかけていくつもの検査を行い,家庭や学校での対応に適切な助言ができるクリニックの数が限られているからであろう。発達障害は児童精神医学の主な領域の1つであり,大学の学生相談でアスペルガー症候群が話題になってきたのもだいぶん前である。しかし,発達障害を持った成人が精神科クリニックを受診するようになったのは最近のことで,診断基準が問題になってきている。成人になった高機能自閉症ないしアスペルガー症候群,あるいはADHD(注意欠如/多動性障害)の診断には,低年齢の時から,その診断にふさわしい症状がみられていた事実の確認が必要だが,成人になってクリニックを訪れる患者では幼少時の情報が欠けていることが多い。
発達障害の症状は固定したものではなく,年齢とともに変化していく。広範性発達障害の子どもを数年フォローすると,同じように相互的な社会的関係の異常とか,コミュニケーションにおける質的障害(ともにICD-10-DCR)といっても随分変化する。4~5歳になると主治医の姿を見ると駆け寄って来るし,小学生になると,向こうのほうからなんらかの言葉かけをしてくる。中学生になると,鉄道研究会で,皆といっしょに計画して旅行に出かけたりする。対人的相互関係の領域やコミュニケーションの領域で起こっている症状を「障害」と断定するのではなく,対人関係が不器用な子ども,コミュニケーションが下手な子どもととらえることによって,年齢に応じた指導の手がかりが得られる。言語的活動水準の高いアスペルガー症候群の子どもは,一般の子どもが友だちとのかかわりが活発になる中学生から高校生の年齢になると同級生に声をかけるようになるが,相手の考えの方向や感情的反応を推理できないため,相手が嫌がることを平気で言ったりすることが目立ってくる。そのため同僚が無視したりすると,さらに一方的なアプローチをしたり,以前に言われたことを思い出して執拗に抗議をしたりする。いずれにしても,成人ではそれだけ自閉症らしさが少なくなっている。こうしたことから,成人の発達障害の診断には幼少時期の情報が必要なことが明らかになる。対人関係の機微を必要としないで済む研究者にはアスペルガー症候群の人がいることはよく知られているが,それ以外の職業領域でアスペルガー症候群の成人ではどんなことが起こってくるだろうか。その全容がわかってくるのはこれからであろう。最近,統合失調症と診断を受けている患者の中にアスペルガー症候群のケースが少なくないと言われる。確かにそのようなことはあるが,まず,上記のような特徴を吟味することなく,ただ診断基準を操作的に当てはめるだけで,統合失調症と診断して投薬すべき患者をアスペルガー症候群と診断し,不適切な投薬によって病状が悪化しているのを見かけることがある。
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