書評
―広沢正孝 著―成人の高機能広汎性発達障害とアスペルガー症候群―社会に生きる彼らの精神行動特性
中根 晃
1
1日本自閉症スペクトラム学会
pp.820
発行日 2011年8月15日
Published Date 2011/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405101954
- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
高機能広汎性発達障害の行動特性や精神症状の特徴について論及
大分前から成人のメンタルクリニックで大人の発達障害が多くなったという話を耳にするようになった。児童期の発達障害の臨床に従事している精神科医は,心の理論,執行機能などの認知特性の考えを援用して思春期に達した発達障害の病理をとらえ,その延長としての成人期の発達障害の臨床像を想い描こうとしていた。これに対し,成人期になって統合失調症なり人格障害などが疑われて成人中心のクリニックを訪れる発達障害の患者について論及したのが本書である。
子どもは中学生の年齢になると自分自身を意識するようになる。この意識が年齢とともに明確になり,確固とした自己感(sense of self)に達する。正常な知的水準にあり,ある程度の社会生活が可能な高機能広汎性発達障害の人たちは,社会への適応に向けてたゆみなき努力をしており,それは障害というより特殊な発達の道筋(発達的マイノリティ)をたどりながら発達してきたものと著者は述べている。一般の人は対象を物質的存在としてとらえて体系化していく志向性と,それを社会的な環境の中で特化しようとする共感を持って把握しようとする志向性の両者によって,自己と対象との距離が適切に保たれ,体験された対象に自分固有の意味が与えられる。
Copyright © 2011, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.