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コミュニケーションとは何だろう?
私たちは「言葉」と「コミュニケーション」を同義語のように扱ってしまいがちである。つまり,しゃべれば伝わるはずだ,ちゃんと言ったから理解してもらえないのはおかしいと考えるのだ。だが,正確に何かを語ったつもりでも伝わらないことはよくあることだし,通じたかに見えて返ってきた反応が想定外の域を大幅に超えた想定外であり,何かが伝わったとは到底いえないと判明することもある。ただ,このようなコミュニケーションの不備を取り沙汰するときはもっぱら言語の内容による「情報伝達」のみが問題視される場合であって,誰もが承知しているように,本来のコミュニケーションとは,単なる情報伝達よりもずっと広い範囲の,そして複雑な内容の交流的な出来事を指している。それには,
①意図された中身(志向のしぼりこみ方法)
②伝達方法(発信方法・受信方法)
③解釈された中身(解釈方法)
という3つの要素があり,発信者が中身と発信方法を自分の流儀で選び,発信すると,受信者が受信方法と解釈方法を自分なりに決めて中身を推察するということの交互の繰り返しで進んでいく。選択には当然,さまざまな推測と憶測と模索と試行がつきまとうから,1回の働きかけで一方の意図に反した理解(誤解)が起こることなど日常茶飯事である。発信されたメッセージにしても,意図が複数織り込まれることもあれば,相反する意図がセットになって送られることもある(無論,発信者にも迷いや混乱があるのだ)。時には相手に知られたくない意図が表情や声色に表れて漏れ出てしまう場合もあるだろう(発信者が必死に隠そうとしていたものが受信者によって察知され解釈されてしまうこともあるだろう)。コミュニケーションにおけるメッセージとは,意味の小部屋が折り重なったパイ皮のような重層構造をしていて,顕微鏡で見るときのプレパラート上の組織片のようにピントの合わせ方で見えるものはぜんぜん違ってくるのだ。どの層の意味を優先的に取り上げたものか? どうやってそれ(優先度の高い意味や意図)を決めたものか? 私たちにとって対人関係が面倒なのはいつもそれらのことで思案せざるを得なくなるからである。ゆえに受信者が受信するなり速攻で確認や問い合わせのメッセージを返したり,発信者が前の発信を説明する補足内容を呼吸を置かず発信したりする必要も出てくる。するとさらにその確認や補足に対する確認や補足が必要になることもあろう。だからコミュニケーションは方向性のある1回切りの出来事ではなく,回帰して更新・洗練されていく交流であると定義することができるのだ。交流が続くうちに,双方が双方についての認識を深めたり,双方の間で新たなテーマが出現し,新たな意図や志向が生まれたり,伝達や解釈のやり方が微調整されたりすることになる。
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