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近年,対照群を置いた無作為化臨床試験などにより医学的根拠の高い治療法が優先して列挙されたエビデンスに基づく治療指針が,ガイドラインやアルゴリズムとして統合失調症やうつ病などの精神疾患を対象に世界各国から数多く公表されており,精神科臨床をこれから学ぼうとする卒業したばかりの研修医の臨床教育用資料として活用されたり,あるいは実際の臨床現場においても治療方針を決定する際の参考にされるようになってきている。しかし,経験を積んだ精神科医が,うつ病や統合失調症の治療を行うにあたって実際にガイドラインに沿った治療を実施しようとすると,さまざまなギャップに遭遇することが多い。
統合失調症の薬物治療ガイドラインでは,最初は非定型抗精神病薬の単剤からはじめ,治療反応性が乏しかったり,投与した薬剤に特有の副作用が発現したりした場合などには他の抗精神病薬に切り替えることを推奨している。野球に例えていえば,必勝を期して登板したエースが打たれた時に,エースを降板させて別の中継ぎ投手にスイッチするような感覚である。ガイドラインで最初に投与することが推奨されている抗精神病薬の多くは,定型抗精神病薬よりも優位性を示すエビデンスを持つ非定型抗精神病薬の一群であり,ガイドラインに沿ってこれらの薬剤群の中から1剤を選択する際には,臨床的経験を加味して患者に最もふさわしいであろうと思われる薬剤を自分で判断して投与することになる。最初に選択した非定型抗精神病薬でうまくいかなかったら,別の抗精神病薬に変更することが推奨されているが,特に問題となる副作用も出現しなくて,ある程度精神症状の改善がみられたけれど,まだまだ完全にはよくなっていないというような状況では,切り替えを考慮しても,ある程度薬剤の有効性を実感している患者さんが処方の継続を希望されるような場合など,日常臨床の現場ではスパッと切り替えられない状況にしばしば遭遇する。
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