特集 臨床疫学
診断・治療法への疫学の適用
久道 茂
1
Shigeru HISAMICHI
1
1東北大学医学部公衆衛生学教室
pp.828-831
発行日 1990年12月15日
Published Date 1990/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401900233
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■はじめに
臨床疫学とは,医学における科学的観察とその解釈のための方法論の一つであり,臨床医学で出てきた問題に対して疫学的原理と方法を適用するもの1),といわれている.つまり,疫学の目的である疾病の原因,要因を探るための考え方や方法論を,診断や治療方法,およびそれらの評価に応用するものである.臨床は個人個人の患者が対象である個の医学である.臨床における意思決定の多くは,不確実性あるいは不確実性下に行われる.したがって,意思決定の基礎となる医師の知識,患者からの情報が確実であればあるほど,その判断は容易でかつ正しいものになるはずである.残念なことに,医師の知識にしろ患者から得られる情報(既往歴,自覚症状,臨床理学的所見,検査所見など)にしろ完全なものはない.多くの臨床医は,病める患者を目の前にして,不確実な状況のもとでの判断を強いられているのが現実である.その判断が,できるだけ理性的,合理的かつ論理的であるべきなのはいうまでもない.臨床医は先人の残した多くの臨床上の知見や自分の臨床経験をもとに,目の前の患者に対応している.しかし,個の医学である臨床医学は,病める患者を対象とした経験の積み重ねであるがゆえに,多くのバイアス(Bias,偏り)をかかえ込んでの結論を導き出している危険が少なくないといわれている.後述する“三た論法”に対する反省であろう.
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