- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
日本精神神経学会はようやく専門医制度を発足させることになった。精神療法に関して問題になってくるのは,専門医に求められる精神療法能力をどう定義づけし,どう測定するかであろう。しかし,これは非常に難しい問題である。精神分析とか森田療法のようにある種の枠組みが決まっている場合は別にして,一般精神科医,ことに精神医療の中での精神療法となると,事はそう簡単ではないのである。加えて,ここ20年ばかりの間に疾病観が急速に変容を遂げたこと,精神医療の構造が一変していることも忘れてはならない。
精神療法とは,心因性疾患である神経症を対象に編み出された治療法であるが,神経症なる概念はDSM-Ⅲ以来,排除されてしまっている。もっとも心因的であると考えられた不安神経症からして,立派な生物学的基盤をもった精神疾患となっているのである。薬物療法が前面に出てきた。かつての神経症概念(Freud S)はほとんど通用しなくなったかの感がある。
一方,治療構造に関しては,かつては医者と看護師がいれば精神医療は成り立っていたが,現在では,多様な職種が関与する統合的な治療システムの中での治療行為が原則である。たとえば,統合失調症の臨床現場では,精神科医の役割が急速に小さくなっていると密かにささやかれているという。診断と治療薬が決まれば,後は,看護師,臨床心理士,作業療法士,PSWその他の人たちがそれぞれの役割を担うようになっているのだ。これは何も統合失調症に限ったことではない。精神療法が唯一有効な治療法であるかのような認識の多い境界性人格障害にしても,現実は,薬物療法,入院治療,家族援助,社会療法,グループワークなどの統合的な治療システムなくして治療はほとんど進まないし,個人精神療法はそうしたシステムに支えられてはじめて可能になるのだ。さらに個人療法がすべての症例に必要だというわけでもない。最近の症例は問題行動をもっていることが多いために,こうした治療システムはいよいよ重要になっている。
Copyright © 2004, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.