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はじめに
精神科医療におけるサイコセラピーの重要さは述べるまでもないことである。歴史的には精神科の中心的治療法であったわけである。それが近年になって,薬物療法などの他の器質的治療法が導入され,それらは結果が見えやすいこと,論文を作りやすいことによって,より多くの研究費を集めることに成功したのである。その結果,精神科治療における重要度においては,サイコセラピーが,今なお半分程度を占めると思われるにもかかわらず,研究者の関心はマイナーなものになってしまっているのは残念なことである。
この点については,欧米においても同様な傾向が認められてきた。アメリカでは近年,医療費の削減のため,サイコロジストによるサイコセラピーに対しても保険がおりるようになった。そのため,サイコセラピーはむしろサイコロジストによって行われるようになり,精神科医は薬物療法を中心とする器質的治療にさらに追い込まれるようになっている。
その点では,アメリカのサイコロジストと精神科医は必ずしも協力的とはいえず,むしろ競合的関係が強くなっているようである。
ヨーロッパでは,サイコセラピストの役割の重要性が認識されているが,他方,いいかげんなサイコセラピストはむしろ害を与える可能性があるため,サイコセラピストの資格認定が近年始まった。そしてサイコセラピストとして働く者は全員が欧州サイコセラピストの認定(European Certificate for Psychotherapy;ECP)を得る方向に進めるべく努力がなされている。
ひるがえって日本のサイコセラピー教育,およびサイコセラピー研究は不十分なものである。各大学精神科でもインパクトファクターが全盛なため,サイコセラピーは次第にマイナーな存在に追いやられているのが実情である。
しかし,精神医療は本来,研究業績のためでなく,患者治療のためにあるのであるから,サイコセラピーの建て直しは必要なことである。とはいえ,評価される業績への関心が最大となっている若手研究者は聞く耳を持たないかもしれないが。
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