巻頭言
精神医療の未来予想
平安 良雄
1
1横浜市立大学大学院医学研究科精神医学教室
pp.1254-1255
発行日 2004年12月15日
Published Date 2004/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405100592
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私が精神医学の研修をスタートしたころ,まだ現在の精神保健福祉法は施行されておらず,患者の同意が得られなくても家族の同意があれば,研修医の私であっても入院させることが可能であった。当時から境界型人格障害や摂食障害はすでに頻度が増加している疾患であったが,日常の外来で毎日のように出会う疾患ではなかった。抗精神病薬はハロペリドールとクロルプロマジンやレボメプロマジンが中心で,副作用には注意が必要という意識はあったが,錐体外路症状の出現はコンプライアンスが保たれている証拠であるとか,錐体外路症状が出現するくらいの量でないと治療効果がないと解釈されていた。抗うつ薬は三環系抗うつ薬が主流であったが,四環系抗うつ薬が新世代の抗うつ薬として脚光を浴びていた。睡眠薬は短時間作用型の薬が使用され始めた。精神科領域の治療薬で期待の大きかったのは,脳代謝改善薬,脳循環改善薬といわれたいわゆる抗痴呆薬,であった。精神科の研修として大学で勉強会や研修医向けの講義を受け,先輩たちが丁寧に教えてくれた。しかし,標準化されたものはなく,到達度を客観的に評価する仕組みもなく,指導医の熱意と忍耐強さに支えられていた。研究領域では,MRIが臨床で使われるようにはなっていたが,神経画像領域の研究への応用はわが国ではまだ始まりかけていた時代であり,動物モデルを使い,神経伝達物質の働きがさまざまな角度から研究された。
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