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はじめに
最近,メディアでは,児童期や青年期の精神病理に対する関心が高く,引きこもり,虐待,少年犯罪関連の病理などの話題が報道されない日はないといってよいほどである。医療現場でもこれらの年齢層の相談件数は増えており,児童精神科を専門とするある病院の外来では,1992年から2001年の10年間に外来新患患者数が2.5倍になっているという21)。このような現象の理由はさまざまに議論されているが,病理的な子どもたちの実数が増えていることと,児童の病理に対する関心が高まったことに関連して受診行動が増加していることの両方の要素があるだろう。一方,援助を必要とする子どもたちの病理の内容も変化しつつある。
近年,児童青年精神医学の様相を変化させた大きい因子の1つに,アメリカ精神医学会による診断基準DSM1,2,3)が日本でも使用されるようになったことが挙げられる。それ以前の精神医学の教科書に記載されていた児童に関する記述は,精神遅滞や自閉症など,特別の施設やクラスでの療育を必要とする種類のものが中心であった。当時の教科書に記述されたその他の障害としては,チック,夜尿症などの症状にとどまり,普通学級で,日常的に精神科医療との連携が必要なケースがさほど多いわけではなかった。しかし,DSM-Ⅲ以降アメリカの診断基準が国際的にも広まり,日本でも広く用いられるようになってきた。DSM-Ⅳ3)の中の「通常,幼児期,小児期,または青年期に初めて診断される障害」には多数の疾患名が含まれる。また,これ以外のカテゴリーの中にも,気分障害など児童期や青年期にも患者の多い疾患がある。その後研究が進み,DSM-Ⅲ当時の「小児期,思春期発症疾患」の枠からは独立して独自のカテゴリーができた,摂食障害のような疾患もある。
「通常,幼児期,小児期,または青年期に初めて診断される障害」には,従来から知られている精神遅滞や自閉性障害以外に,注意欠陥/多動性障害やアスペルガー障害,学習障害など,以前日本ではあまり使用されなかった診断名が多く含まれているが,これらは普通学級に通う子どもたちの中にみられる問題である。このような中では,健康者と臨床例をどのように区別し,どのような場合に専門家と連携をとるかが問題となる。メディアでこれほど子どもたちの精神病理が問題になるのも,病理的な現象と健康な子どもの接点が大きくなり,健康な子どもと病理的な子どもは結局どのような違いがあるのかというテーマが過去よりも問題になってきているからとも言えるであろう。
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