巻頭言
臨床の面白さ
篠崎 和弘
1
1和歌山県立医科大学医学部神経精神医学
pp.1050-1051
発行日 2005年10月15日
Published Date 2005/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405100116
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「づつない」症候群
和歌山で診療するようになって2年,地元の言葉が優しい響きを持って聞こえるようになった。ただニュアンスがわかりにくい言葉がいくつかあり,その一つに「づつない」がある。患者さんは上腹部や前胸部を掌でさすりながら「づつない」と苦しそうな表情で訴える。詳しい表現を促しても要領を得ない。別の言葉には置き換えが難しいほどぴったりとした表現のようである。同僚によると「食べ過ぎてお腹(上腹部)が苦しい」「胸が苦しい」ときに使い,上腹部,前胸部に限定して用いるとのこと。
「づつない」を主訴にする患者さんに2年間で4名出会った。4名とも女性,高齢発症で慢性に経過し,1人は激しい焦燥・苦悶様エピソードを繰り返している。「叫びたくなる,家族に背中をさすってもらうがどうにもならない。楽にしてください」と泣き顔で訴えるが,不思議なことに依存的,攻撃的な印象が少ないのは土地柄か。病前の適応やストレス耐性に問題があった様子はない。慢性に経過し抗不安薬,抗うつ薬,少量の非定型抗精神病薬にも反応が乏しい。これまでは雑多な不定愁訴の一つと見なし,また部位特異性にも注目してこなかった。耳慣れない言葉のおかげで「私家版」診断体系に鑑別不能型身体表現性障害の亜型として「づつない」症候群が加わった。
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