- 有料閲覧
- 文献概要
高齢化社会を迎えて今,医療は大きな岐路に立たされている.自然界の生物の寿命には「個体の寿命=成長年齢+生殖期年齢」という法則が成り立っており,人類だけがこの法則に従わずに長寿を享受しているからである.すなわち,動物は子供を生み,その子供が成熟するまで見守ってやることができれば,親の役目を終えたものとして死んでいくのである.おそらく進化の過程で,「個体の保存」は「種の保存」に受け継がれて生物が存続する方法が選択され遺伝子が継承されていくことが確立したものと考える。人生50年といわれた時代はまさにこの法則に従っていたわけである.しかし,20世紀の後半になり生活の質の向上および医療の発達により,人生80年の時代を迎えている.このような長寿の達成は周産期死亡の減少,伝染病など感染性疾患の抑圧,悪性疾患の早期発見・早期治療によるところが大きいが,これらの進歩と裏腹に高齢者の慢性疾患が目立つようになってきた.高血圧,動脈硬化,糖尿病など生活習慣病といわれる慢性成人病はそのほとんどが50歳以後問題となる.豊かな食生活をもたらす生活習慣病はいわば規定寿命後のトラブルの原因となっている.
元来,人類は草食の類人猿にその起源をもち,森の中で草の芽や果実を食糧にしていたわけであるから,栄養価の低い食糧に甘んじていたことになる.しかし,人類の知恵は,道具を作り出し,狩猟によって動物をとらえ,栄養価の高い肉食生活を享受するにいたった.その結果,人類は草食・肉食の贅沢を楽しむようになり,食糧を貯蓄する工夫により,食糧不足の飢餓から身を守る手段を獲得したのである.特に20世紀後半における文明の発達は急速な食生活の変化をもたらし,先進国において食糧が過剰に供給されるようになったのであるが,このような食糧の過剰供給はこれまでの生物史にはなかったことである.
Copyright © 1997, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.