- 有料閲覧
- 文献概要
今から21年前,米国デューク大学に留学中の見聞の一片を書かせていただきたい.ある日,ふらっと入ってきた背の高い白衣姿の外科の老教授がテクニシャンをつかまえて,心臓病理学研究室(Hackel研)の先天性心疾患標本ばかり約300例を集めた一角からいくつかの標本を出させて,自分でゴム手袋をつけ,レジデントと同じように心臓を見始めたのである.彼はWPW症候群の外科手術を世界で最初に行ったことで有名な,WC Sealy教授その人であった.検索中の先生の側に寄って何をされているかお聞きすると,明日Tricuspid atresiaにWPWを合併した患者の手術をするので,その確認,予習をしているのだとのこと.こんなに偉い先生が,明日の手術のために御自分の知識を再確認されている様子に感銘を受けた.記念にSealy教授とツーショットで写真を撮ってもらい,今でも恩師Hackel教授の写真と並べて飾ってある.また,Hackel先生がデューク大学へ赴任されてからの16年間に営々と集められた刺激伝導系標本を,名もない日本人の研究者の私にそっくり自由に使わせて下さったことにも,いまだに感謝している.
さて,最近全国的に剖検率が落ちている.高名な心臓病理学者WC Roberts氏の「米国全体の剖検率が10年間で半減し22%に下がった.対策が必要だ.」と警告する一文(NEJM 299:332,1978)に接したのは今から22年前であった.当時日本の剖検率は50%前後で,かなり優秀だと感じたものだが,いつしか日本でも同じ状況になってしまった.私が長年勤務した東京都老人医療センターでは30年前には剖検率が90%であったが,ここ10年余は激減し,約40%,さらに30%前後になってしまったという.それでも年間200例を越える剖検数は全国2位と病理部長の江崎先生は言っておられたが.
Copyright © 2001, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.