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BenchからBedsideへという概念は決して新しいものではない.古くから生物科学や基礎医学と臨床医学との交流が医学の発展に貢献していたのはいうまでもない.しかしながら,実験室から臨床の場へ,逆に臨床の場から実験室への距離は急速に近くなっている.最近ほど臨床の立場から,基礎医学が近く感じられることはなかった.逆もまた事実であろう.
急性冠症候群を例に振り返ってみよう.急性心筋梗塞の発症に血栓形成が関与していることは病理学的研究で指摘されていたが,実際に血栓溶解療法によって責任血管が再疎通することから逆に証明されたとも言える.粥腫の破綻あるいは出血が発症に関わっていることもやはり病理学的に指摘されていたが,血管造影上責任血管の形態学的特徴に潰瘍性病変が多く見られることが臨床の場から観察され,最近では血管内超音波でより明らかに粥腫の破綻が観察できる.また,急性心筋梗塞において基礎病変が軽いものから突然完全閉塞してくることはしばしば経験されていたが,これが急性冠症候群の主要なメカニズムである不安定な粥腫の破綻に引き続く血栓形成だったわけである.冠動脈造影では粥腫の破綻は近位部の立ち上がりのところに多く認められるが,病理学的にもプラークの肩の部分にマクロファージやTリンパ球が豊富に存在していることが指摘され,さらにこれらの炎症細胞が様々なサイトカインやプロテアーゼなどの物質を産生し,粥腫の破綻に深く関わっていることが遺伝子レベルあるいは蛋白の発現レベルでもわかってきた.スタチンによる臨床試験は,LDLコレステロールの低下が冠動脈造影上の改善はそれほどでもないのに,粥腫を安定化させて心血管系の事故を予防することを示し,基礎研究はLDLコレステロールの低下が組織でのプロテアーゼ活性や組織因子を低下させ,内皮機能を改善させて粥腫の安定化が起こることを証明してきた.
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