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適応の限界を越えるような過酷な環境変動が継続して負荷されると,その種は絶滅の危機に瀕することになるが,やがて遺伝子レベルの変化が現れて,生き残る種が出現し,代わって繁栄するようになる.それは生物進化の歴史をみれば一目瞭然であるが,この進化上の構造変動を胎児の期間に垣間見ることができる.個体発生は系統発生を繰り返すといわれるように,胎児の間,羊水環境のなかで,この生物進化の歴史を個体の構造変動を通じて見ることができる.換言すると,胎児の期間に,あらゆる環境変動に対応する機能構造が生体の奥深くに刻み込まれる,と言うことができる.そのような構造変動は,出生時には原型をとどめないものが多いが,出生後に機能するさまざまの構造の原型となっているのは間違いない.こういう観点から胎児の呼吸システムを眺めてみようと思う.
ところで,人間(胎児ではないので注意)の呼吸システムは基本的に次の三つの機能に分けられる.まず第一に,ガス交換を担う自律性機能がある.これは一生涯続く横隔膜のリズム性運動によって主に営まれる.酸素,炭酸ガス,水素イオンなどのホメオスタシス維持に不可欠の機能である.第二の機能は,ガス交換の通路である気道を,絶えず良好な状態に保つ働きである.それは気道上の各種の受容器からの信号をもとに,せきやくしゃみなどの防御反射として現れる.第三には,発語機能や泣き・笑いなどの情動表出と関連したものである.大脳皮質の言語中枢や辺縁系からの下行性指令が延髄の呼吸中枢を介して発現される.これらの三つの機能の原型が,胎児のどの段階で形成され,出生までの間にどのように修飾されるかをみることによって,私たち人間の呼吸システムについて,より深い理解を得ることができると考えられる.
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