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はじめに
今日,多くの臨床医は続々と発表されるメガトライアルの結果に注目しながら慢性心不全の治療に腐心している.しかし,心機能の改善にばかり目を奪われると他の重要な症状や徴候を見逃す恐れがある.特に,慢性心不全でみられる電解質異常は,予後との密接な相互関係も示されており,その重要性を今一度認識する必要がある.なかでも,低ナトリウム(以下Na)血症にいったん陥ると利尿薬の使用や輸液の選択といった基本療法でジレンマに直面することが少なくない.
慢性心不全では,心拍出量低下や血圧低下によりレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(以下RAAS)が活性化され,さらに容量・圧受容体を介して直接的に交感神経系も活性化されて抗利尿ホルモン(以下ADH)の分泌も亢進する.これらの機構は,体血圧を維持し,血管内容量を保とうとする一種の生体防御反応であり,短期的には生命維持において重要な役割を演じている.だが,長期的観点では過剰な体液貯留に連なり様々な悪性サイクルを惹起することとなる.数多くの予後規定因子が挙げられているなかで,血清Na濃度は特に着目されてきた経緯がある.Pan—ciroliら1)はNa値を135mEq/lで2群に,Leeら2)も137mEq/lで分離した結果,いずれもより低値のグループが予後不良であることを示した(図1,2).慢性心不全でみられる低Na血症は神経・体液因子の活性化と腎臓での水・Na調節とが密接に関わりあって発現してくるため,この病態生理をよく理解して治療に当たらないと目標を大きく誤ることになる.低Na血症があるからといって高濃度Na輸液を行うことは厳に慎まなければならない.
ここでは,低Na血症を伴う心不全について解説し,自験例での追加治療の1例を述べる.
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