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はじめに
呼吸機能障害を来す循環疾患に対して一酸化窒素吸入療法が行われるようになった.本稿ではNOについて何が分かっているかの概略をまず述べた後,一酸化窒素吸入療法の薬物動態的特徴を中心に述べる.
一酸化窒素は常温常気圧では無色の気体である.ボンベを開くと茶褐色にみえるのは,一酸化窒素が酸素と反応して有毒な二酸化窒素に変化するためである.一酸化窒素の化学構造式はNOであり,英語表記でnitric oxideという.フリーラジカルであることを強調するために・NOと書くことも多い.これに対して,nitrogen monox—ideは・NOの他にNO+(nitrosyl cationまたはnitrosonium)およびNO−(nitrosyl anion)を総称した呼び名である.NOガスは17世紀から18世紀にかけて硝酸と金属を反応させることにより発見された.
薬の歴史上,毒が薬になった例は珍しくない.古くはツボクラリンがあり,第二次大戦後ではマスタードガスが悪性リンパ腫に有効であることがわかり,この研究によりシクロホスファミドの発見が可能となっている.NOが薬になった背景には,新しい概念が生まれたことが大きく貢献した.すなわち,NOが生体内に存在するという発見である.これ以前にNOがグアニル酸シクラーゼを活性化することはわかっていた.ニトログリセリンに代表されるいわゆる亜硝酸化合物と呼ばれる薬はNOを細胞内で遊離することにより作用すると今では信じられている.NOの生物活性に関する情報が増すにつれ,NO自身を治療に応用する医師が出現しても不思議ではない状況があった.
NOの研究分野が拡大したのは,それまで血管薬理学上の問題であった内皮由来弛緩因子(EDRF)の本態がNOではないかと提唱された時以来である.ここではまずEDRFの歴史を紹介したい.
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