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急性心筋梗塞における不整脈はもっとも頻度の高い合併症であるが,CCUの普及によりその診断・治療は長足の進歩をとげた。それ以前は急性心筋梗塞の院内死亡率は30〜40%で,そのうち不整脈死は40〜50%ともっとも多かったが,現在では急性心筋梗塞の院内死亡率は10〜20%と低下し,不整脈死は数%に著減した。しかし今なお心筋梗塞の全死亡率は約50%といわれ,その40〜75%は発症後1時間以内で病院へ収容されずに死亡し,その死因の大半は不整脈と考えられている1)。更には慢性期における突然死の多くは心室細動と考えられている。従って,心筋梗塞における不整脈に対する的確な治療法を確立することは今日的な重要課題といえる。そのためには心筋梗塞に伴った不整脈の発生機序を解明することが不可欠であるが,その解明は極めて困難である。その理由として,(1)不整脈の種類は多彩であり,頻脈性および徐脈性不整脈とほとんどすべての不整脈が出現すること,(2)不整脈の種類と頻度は心筋梗塞の発症からの時間経過で大きく変化すること,更に梗塞部位,梗塞の広さ,ポンプ失調の有無,年齢などによっても異なること,(3)急性心筋梗塞自体の病態が時間経過で変動し,電気生理学的,生化学的,組織学的および血行動態的状態の変化などをもたらすこと,(4)心筋梗塞の発生機序に関する論争は約100年の歴史を有し,冠動脈血栓説が主流を占め,また冠動脈攣縮説も考えられているが,最近心筋細胞が自ら過収縮,過伸展し,瞬時にして崩壊するという自己崩壊説が提唱されており2),心筋梗塞の発生機序自体が必ずしも確立されていないこと,などがあげられる。
心筋梗塞に伴った不整脈に関する研究は,冠動脈閉塞により心筋を虚血にした際の不整脈,すなわち虚血性不整脈の実験に基づいている。その実験モデルとしては,通常は開胸麻酔犬における前下降枝あるいは回旋枝結紮モデルが用いられ3〜5,時には非開胸無麻酔犬におけるバルーンないしはameroidによる冠動脈閉塞モデルが用いられる6)。これらのモデル実験において細胞内微小電極法,心外膜下,心内膜下および心室壁内電位記録の手法,更には各種イオン感受性電極や生化学的手法を用いた多くの研究がなされている。その結果虚血性不整脈の発生機序に関して多くの知見が得られたが,未だ解明されていない点が少なくない。しかしこれらの実験モデルから得られた知見が,ヒトの心筋梗塞における不整脈の発生機序および治療を考える上で重要な情報を提供していることは明らかである。本稿では種々のin vivoおよびin vitro実験による虚血性不整脈,すなわち心室性不整脈を中心にその発生機序に関する現在の知見について概説を加える。
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