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心内膜下梗塞(subendocardial infarction)という病名は,教科書に載っており,広く知られているが,各研究者によって定義が異なり,混乱している概念でもある。心室壁の中で,心内膜下は虚血に陥り易い場所であり,病理学的に心内膜下に限局した虚血を生じることは確かである。臨床的には,心内膜下梗塞の診断は,心電図上のST・T変化と,心筋逸脱酵素の上昇に基づいて行われている。ST・Tの変化がどの様な条件を満した時に診断したらよいのか。心筋逸脱酵素がどこまで上昇した時に診断したらよいのか。現在のように,心筋逸脱酵素の変化を経時に追うようになると,ピーク値が正常上限を越える症例が多く見つかってきているが,これらを全て心内膜下梗塞と診断してよいのであろうか。更に,心筋逸脱酵素が上昇し,一過性にSTが上昇し,QRSに変化のこない症例がある。この症例が心内膜下梗塞と本質的に異なっているのであろうか。また,R波がどの程度まで低下した時に貫壁性梗塞とすべきなのかについても明確に定義されていない。そこで,心内膜下梗塞の病名より,より概念の広い非貫壁性梗塞(nontrans—mural infarction)の病名を用いて,自験例をもとに検討したい。
本問題を複雑にしているもう1つの問題は,非貫壁性梗塞を生じている機構が単一ではないと考えられる点である。1例をあげると,冠状動脈の閉塞が不完全に終り,非貫壁性梗塞となり,急性期の予後は比較的よいが,再発率が高く,長期予後は貫壁性梗塞と変わらないと考えられる症例がある。一方,高度の冠状動脈の狭窄が広汎にあり,側副血行路の発達が良く,非貫壁性梗塞となるが,その範囲が広く,急性期にポンプ失調をおこし,急性期予後の極めて悪い症例もある。発作時に血圧が低下し,ショック状態になることが多い。逆に血圧低下,高度の貧血が先行したと考えられる症例もある。本稿の後半は,具体的な症例をあげながら,働いている発症機転を推定してみたいと思う。
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