呼と循ゼミナール
老人肺とその周辺
原沢 道美
1
1東京大学医学部老年病学教室
pp.20
発行日 1974年1月15日
Published Date 1974/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404202575
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肺は気道を介して外界と連絡しているため,外界からの種々の好ましくない影響を受けやすい。したがって,たとえ健康老年者であっても,その肺には種々の病的変化がみられるのが常である。それは個人の素因,生活状態,環境,既往歴などによって,大いに異なると思われるが,共通の因子として加齢を考え,純粋に年をとることによって起こる変化をそこから概念的に抽出したものが,老人肺である。換言すれば,老年者の誰にでも共通にみられる肺の変化が老人肺で,実際の老年者ではそれにいろいろの病的変化が,種々の程度に加わっているということになる。
老年者では脊柱の後彎,骨粗鬆症,肋骨の動きの減少,吸気筋の部分的収縮などにより,胸郭の前後径が増す傾向にある。これらの変化は胸郭の硬さを増し,呼気筋の筋力低下をもたらすことになるが,減少した肺組織がこのような胸腔をうめなければならないので,肺胞は数が減少するが,大きさを増すことになり,細気管支や肺胞道などの末梢気道も拡大する。肺のエラスチン含量は加齢と共に増加するが,コラゲン量は不変である。しかしそれも交叉接合を起こしてくる。これらの変化によって,肺も硬さを増し,収縮しがたくなってくるが,その程度は胸郭の方がより強い。
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