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はじめに
心電図において,QRS群は洞結節からの興奮が心室筋に伝達されて,次々に脱分極が心室で起こってゆく過程を表現する。一方,T波は心室筋が興奮状態から回復してゆく過程を表わしている。すなわちこれらの各波形は各々心室における興奮の進展過程と消退過程の表現であることはよく知られている事実である。これと同様に,P波は洞結節から出た電気的刺激が心房筋に広がって脱分極を起こす過程,すなわち興奮の進展過程を表現する。次に心房筋の興奮状態が次第に回復してゆくわけであるが,この時の電気的表現が心房T波(Ta波)と言われるもので,心室群におけるT波に相当し,心房における興奮の消退過程を表わす。しかしP波が常によく観察されるのに比してTa波はその振れが非常に小さくて,従来の心電計では認めることが困難であったことと,通常では出現時期が心室の興奮期に重なる為QRS群の中に隠れて,ある特殊な病的状態(たとえば完全房室ブロック,著名なPQ延長,心房性期外収縮)の時などを除いては観察されにくいことなどの為に従来はあまり重要視されなかった傾向がある。しかしながらTa波は心房硬塞の診断の手掛りとして重要であり,またP波と反対方向の振れを描き,P波が上向きの場合は下向きに記録される為,PQ間部,ST間部,あるいはJ点の見かけ上の低下を引き起こし,誤って冠不全,心筋傷害などと診断されるおそれがある。この為,Ta波の臨床的意義というものが最近時に注目されるようになった。Ta波に関しては,古典的な動物実験から,最近の臨床的な検討に至るまで,いくつかの報告はあるが,実験手技上,ならびに記録操作上の困難さの為,その実体の全貌は末だ明らかにされていなかった。今回は,Ta波の研究の歴史を簡単に振り返り,次に著者らが行なった動物実験の成績,ならびに臨床的検討の結果をまじえながら,Ta波に関する概要,あるいは問題点を述べてゆきたいと思う。
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