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はじめに
心臓から駆出された血液は動脈から毛細管の血管床に至り,次に静脈に入り心臓へと帰ってくる。この際の血液量は心拍出量の調節として把握されているが,各部位における血液量が,どのように配分されているかも知らなければならぬ。血行動態の一般の認識は動脈管内における力学のみが論ぜられている感がある。最近では毛細管床の独立性が論ぜられ,毛細管床の機能を評価するようになってきた。しかし静脈管内における血液量や血流量の調節機構についても知らなければならぬ。静脈還流とはこの静脈管内における血液の量や流れを知ることであるが,実験の困難な為に比較的とりあげられることが少ない。しかし臨床の実際では静脈圧測定が行なわれ静脈還流の指標として巧みに用いられている。とはいえ臨床で利用されている場合には,静脈貯溜槽として特殊な条件にあるときのみがとりあげられている。したがって静脈還流の実際を理解することによりさらに臨床応用も広く活用されるであろう。静脈還流を要約していえば静脈系を貯水槽すなわち水の入った桶と考えて,この桶の中にどのように水が入ってくるのか,入ってきた水を心臓というひしやくがどのようにくみ出してゆくか,この桶の大きさがどのように変化しているかということを探求してゆくものである。静脈還流に関する知識は思考的には貯水槽を想定すれば説明できるのであるが,これを実証するのには測定上の問題点があり,静脈管の特性を決定することが困難で,さらに生体としての多くの因子が複合して存在しているので,静脈管のみの分離実験が困難であること等が加って現在でもなお一致した意見に到達しているとはいえないといえる。しかし臨床の実際での心臓の弁機能不全,収縮性心膜炎や人工心肺装置による体外循環等の場合には静脈還流の状態を把握することにより病態生理が解明されているといえる。今回は静脈還流に関するこれまでの知識を整理しながら本態にふれてみたいと思う。
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