Japanese
English
綜説
末梢静脈の循環動態
Circulation Mechanism of Peripheral Venous System
阪口 周吉
1
Shukichi Sakaguchi
1
1慶応義塾大学医学部外科学教室
1Department of Surgery, School of Medicine, Keio University
pp.664-673
発行日 1969年8月15日
Published Date 1969/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404202053
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はじめに
近年血管学が長足の進歩をとげたのはいうまでもないが,それは主として動脈系のことであって,こと静脈系に関しては未だしの感が深い。末梢静脈系の疾患は決して少ないものではなく,欧米では統計上驚くべき数字に達し,これによって就労不能の状態をまねき,あるいはこれが原因で死亡に至るものが意外に多いという事実が注目をあつめている。幸いにわが国ではそれほどのことはないが,動脈疾患の発生が漸次欧米のそれに似通いつつあること,環境が欧米の水準に到達しつつあることから考えて,将来確実に増加する疾患であろうとは容易に想像されるところである。
しかし現状では,これら静脈疾患が一般にどれだけ理解されているかという点では大いに疑問を感ずる。なんとなくなじみが薄く,わかりにくい領域として残されているという感じが強い。事実静脈疾患の病態についてはまだ十分に解明されていない点が多く,またこれから述べるように,その生理学すら不十分である。明らかに動脈系よりも複雑であるのに研究自体が著しく少なく,循環生理の盲点となっている。疾患を正しく理解し,治療するには,まずその生理学を十分知ることが大切であることはいうまでもない。
ところで静脈の還流については上肢よりも下肢が負う役割が圧倒的に大きい。容量も大きいし,メカニズムも独特である。また疾患が起こるのはほとんど下肢であることから,本文では下肢の静脈循環に的を絞って述べることにする。
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