Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
心臓は全身から血液を集めこれを送り出す一つのポンプの役目を果たしている。このポンプがどのような量的関係をもって動作しているかをみることは,血流動態を把握する上にきわめて重要である。初期のねらいは,まず心臓全体の容積を測定することに向けられた。すなわち1916年Rohrer1)はレ線写真上の心陰影をもとに初めてその試みを記載し,Kahlstorff2)に至って心容積を数量的に計測する方法が確立された。Liljestrandら3)は正常値として約700ccをあげ,Lysholmら4)は心容積(heart volume)と1回心拍出量(stroke volume,SV)との比率が13.5をこえると心予備力の低下が考えられるとし,当時すでに鋭い洞察を記している。
1950年代に入ると,心腔内血液量を右の心室,心房に分離し,しかも心拍による収縮,拡張の各時期に分けてそれぞれ選択的に定量を行なう途が開かれた。この方法には後述のごとく2つの源流があり,1つはKahlstorffの流れで線像を基盤とし,造影法を用いる形態的計測による手段で,他の1つはBingら5)により試みられた指示物質の希釈状態から心腔の広がりを算定する,いわば生理学的な手段である。いずれの方法でも心拍時期により,収縮末期血液量(end-systolic volume,ESV),拡張末期血液量(end-diastolic volume,EDV)の別に分けて測定し,その差を1回心拍出量(stroke volume,SV)とするもので,これらの分析的な知見により心室内血液量の追究は飛躍的発展をとげた。
収縮期にも心臓は血液のすべてを駆出しないというWiggers6)の記載をもとに,Bingら5)は心室内に残る血液量を初め残留血液量(residual volume, RV)と呼んだ。この表現は現在でも踏襲され文献に散見されるが,Holt7)は標題にこの語を用いながら,Bingらの示した"residual volume"は心拍周期のどの時点の血液量か疑問であるとし,ESV,EDVの用語をもって概念と測定値をいっそう明確にした。"residual volume"は肺機能における「残気量」とまぎらわしいし,RVの略号は「右心室」(right ventricle)と混同されるおそれもあり,Holtの報告以来,"residual volume"は"end—systolic volume"に統一される傾向にある。
ESV,EDV,SVの関係は図1に示すとおりであるが,3者いずれも体格に比例するとの考えから,絶対量を体重あたり,もしくは体表面積あたりの値として示すことが多い。さらに機能的に重要な指標はEDVに対するSVの比率であることに着目し,
SV/EDVをejection fraction(駆出率)
またはESV/EDVをresidual fraction(残留率)
としてその大小を論ずることも多い。両者の関係は
SV/EDV=EDV-ESV/EDV=1-ESV/EDV
であるから,
(ejection fraction)=1—(residual fraction)である。
本稿では諸家の報告にみられる左右心室のESV,EDV,SVの測定法ならびに測定値を通覧するとともに,ESV/EDVの比率さらには心内圧との関連など,心臓の動作状態を把握するに重要な機能的知見をあわせ述べることにする。
Copyright © 1969, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.