巻頭言
異常環境下の呼吸と循環
米澤 利英
1
1千葉大学医学部麻酔科
pp.671
発行日 1965年9月15日
Published Date 1965/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404201486
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人間はほぼ一定の環境,すなわち約1気圧の空気中で一定の重力支配を受け,ある範囲内の温度,湿度のもとに生活している。これらの環境条件が著しく異常な場合,呼吸・循環面には,著しい変化をきたす。しかし,もし生命維持機構に破綻をきたすことなく生命機能の順応が得られるとすれば,現在全く予想もつかぬ医療の手段として用い得る点が多いと考えられる。例えば無重力の世界では,内臓下垂,いわゆる起立性低血圧症等の疾患はあり得ず,色々の運動負加時の呼吸・循環系の変化は異なったものとなり力学的な治療法は一変するであろう。高温環境に順応し得れば,薬物の作用は強烈かつ一過性になり,その治療効果は全く異なった観を呈するであろう。高圧下に順応した状態を考えると呼吸機序は一変し,低温環境に体温下降をもって順応出来れば生命現象は鈍化し,侵襲に対する障害程度が全く異なり,かつ生命と死との概念を一変せねばならなくなり,治療法は全く想像も出来ぬことが行ない得ると考えられる。現実に臨床的には,高圧室の応用はCO中毒その他呼吸不全の治療等に成果を挙げており,低体温麻酔の進歩は外科治療の夢であった開心術を可能とし,また脳その他の器官に対する手術に革命的進歩をもたらしている。
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