巻頭言
末梢血管疾患の我が国における特殊性
石川 浩一
1
1東京大学医学部外科
pp.483
発行日 1963年7月15日
Published Date 1963/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404201224
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欧米の病院を見学するものが気付くことの一つとして,我が国と欧米の疾患における発生頻度の差異があげられよう。ことに私共外科学にたずさわる者は,欧米の病院で肺癌・中毒性甲状腺腫・横隔膜ヘルニア。大血管の閉塞性動脈硬化症・糖尿病の合併・小児の内臓奇形などが多く取り扱われていることをみており,反対に胃癌・胃潰瘍・肺結核・Buerger病などが少ないことを指摘するようである。また故都築名誉教授は,白人では結合組織が一般に弱いためにへルニア・痔核・静脈瘤などが頻発するといわれ,さらに手術創を縫合したのちに強固な瘢痕ができないことが多く,ことに腹部正中切開創のなおりが悪いことをあげておられた。
循環系の外科的疾患としては,前述のごとく大きい血管の動脈硬化症が欧米に多くみられ,Bu—erger病や脈なし病など閉塞性血管炎とみられる疾患が我が国などに多いようである。事実,欧米の外科病院では腹部大動脈の動脈硬化性動脈瘤,腸骨大腿動脈などの閉塞性動脈硬化症が甚だ多くみられ,前者に対しては切除後合成代用血管移植が,また後者に対しては血栓内膜剔除あるいは合成代用血管や自家静脈のbypass移植が日常茶飯事として行われている。また糖尿病性壊死も多く,経中足骨切断などがしばしば施される。これに反して,Buergerの記載した閉塞性血栓血管炎は殆ど欧米にみられず,英米外科医の一部には本病の存在を疑がうものも少なくない。
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