発行日 1954年11月15日
Published Date 1954/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404200177
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近頃診療上私の心をいたく悩まして居る一つの問題がある。それは手術後の乏尿が比較的永く続き,尿毒症様の症状を呈して遂に死亡するLower nephron nephrosisである,こゝ2〜3年の間に3例を経験して居る。非常に多いとは云えぬが,その内の1例をあげると,それは17歳の少年で,非常にやさしい児であつた。軽症の肺結核で,私自身Thoracoplastyの第1次手術を施行した。手術時には何等の手落ちなく。患者も元気であつたが,術後3カ日目から乏尿と血色素尿が現われ,尿比重は比較的低かつた。そこでLo—wer nephron nephrosisを疑い,日本で今吾々が行い得る,唯一の手段として,腹腔内灌流法をやつて見た。一時利尿作用があるかに見えたが,やはり効果はなかつた。其の間患者は苦しみの中に一言の不満をも訴えず,安らかに瞑目して行つたいゝ児であつただけに,親ごさんのくり言には情の上で何等答える言葉もなかつた。
かような急性腎機能不全に対して,アメリカでは既にKolff型の人工腎臓が製作されて,臨牀的に応用し,相応の効果をあげて居る事が報告されて居る。人工心肺に就いては日本に於ても3〜4年前から名大外科,慶大外科其他で研究が着手され,慶大外科では既に動物実験で生存例を得る段階にまで来て居るが,人工腎臓に就いては日本に於ける研究発表を見ないようだ,誠に遣憾なことである。
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