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「健診でBrugada症候群かもしれないと言われて,大学病院を紹介されました」と私の外来を受診される方(ほとんどの場合,健常者であるので患者と呼ぶべきではなかろう)は少なくない.インターネットで簡単に検索ができるご時世も手伝って,「私は近い将来突然死するのでしょうか」と不安そうに尋ねてくる.私自身は,「無用な不安を与えない」ことを一義的に対処している.まずは丁寧に病歴の聴取を行い,心電図所見と併せて,低リスクの方(ほとんどの場合がこれに該当する)に対しては,「心配要りませんよ」と安心していただくようにしている.しかし,ときには,中等度以上のリスクを抱えている方にも出会う.いろんな疾患において,「経過観察」は患者に多くのメリットをもたらす.たとえば,「ウイルス肝炎の患者を定期的にエコー検査でフォローし,肝癌を早期に発見して適切な治療を行う」などが典型例であろう.では,Brugada型心電図波形を有する方はどうであろう.襲ってくるイベントが,心室細動(VF)・心臓突然死であるため,「経過観察」はほとんど意味をなさない.ある時点で,植込み型除細動器(ICD)の適応があると判断すれば植込みを行い,そうでなければ何もしないということになる.Brugadaらの「臨床電気生理検査(EPS)でVFが誘発される場合は高リスクである」との報告(Brugada, et al. Circulation, 2003)を受けて,本邦でも,低リスクの方にEPSが施行され,VFが誘発されたことを根拠にICDを植込まれたという事例が少なからず発生した.その後の多くの臨床研究報告によって,現在では,「Brugada型心電図波形におけるEPSによるVF誘発は,高リスクの指標にならない」との考えが一般的になっている.
さらにやっかいなのが,心電図の早期再分極(J波)所見である.報告者によって差はあるが,健常者に早期再分極(J波)が認められる頻度は数%~23%に達する.確かに特発性VF患者に早期再分極(J波)所見が多く認められるのは事実であるが,これだけ頻度高く認められる所見を有する方に対してすべからく精査を行うことは現実的でない.特発性VFの好発年齢は35~45歳の男性であるが,この年齢層の男性における一般人口での特発性VFの発症率は人口10万人当たり34名と報告されている.一方,何れかの誘導での早期再分極(J点上昇)出現率は,特発性VF患者では42%,健常人では13%で,特発性VF群では正常群よりも3.23倍ほど高いとの報告がある.この報告に従えば,早期再分極(J波)が認められる対象のなかで特発性VFを起こす例は3.4人×3.23=11人/100,000人と推測される.すなわち,健診・スクリーニング検査などで早期再分極(J波)を認めたとしても,将来,VFを起こす率は10,000人に1人程度と非常に低い.したがって,早期再分極(J波)所見の認められる方に対して,「将来,心臓突然死をきたす可能性がありますので…」といった説明を行うことは,無用な不安を与えるだけである.
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