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T細胞受容体(TCR)からのシグナルだけではT細胞はanergy(アナジー),つまり抗原性(免疫原性,アレルギー原性)を有する物質に対して,過敏症反応を引き起こす能力が欠如する.TCRからのシグナルとT細胞状のCD28分子からのシグナルが同時に入ることで,T細胞が活性化しIL-2産生を誘導やmRNAを安定化させる.このCD28分子の相手方分子(ligand:リガンド)がCD80(B7-1),CD86(B7-2)分子である.CD80,CD86は活性化マクロファージやdendritic細胞に強く発現する.他のCostumulation分子にはT細胞に発現する4-1BB,CD40LやOX40分子がある.これらのリガンドは,活性化マクロファージやdendritic細胞に発現している4-1BBL,CD40,OX40L分子である.一方,Coinhibitory分子はT細胞シグナルに抑制系シグナルを入れるブレーキ役の分子である.この代表的な分子がCD28分子の近縁のcytotoxic T-lymphocyte antigen-4(CTLA-4)分子である.CD28分子と同じくCTLA-4のリガンドもCD80,CD86分子である.CTLA-4分子はCD28分子の活性系シグナルを抑制する.またCoinhibitory分子の一つが京都大学の本庶 佑らがクローニングしたprogram death-1(PD-1)分子である.リガンドがPD-L1(B7-H1,CD274),PD-L2(B7-DC,CD273)分子で,活性化マクロファージやdendritic細胞に発現している.また,PD-L1は癌細胞にも発現することが知られている.これらのCostumulation分子やCoinhibitory分子のcDNAクローニングや解析は2000年頃まで日米が競っていた.今思えば,日本の免疫学の一つの頂点だったかもしれない.最近,T細胞の活性化に必要な共刺激をブロックすることにより免疫寛容を導入する試みがある.前述したようにCD28分子を介するT細胞の活性化をCTLA-4分子がブロックすることから,可溶性CTLA-4蛋白を用いた臓器移植の拒絶反応の抑制や自己免疫疾患の治療が行われている.日本でも,可溶性CTLA-4遺伝子組み換え蛋白Abatacept(商品名オレンシア)がリウマチの治療薬として広く使用されているのはご存知の通りである.これまでの癌免疫療法は米国国立がん研究所(NCI)のS. Rosenbergらによるメラノーマ患者への癌ペプチドやサイトカイン癌免疫療法がよく知られている.しかし,メラノーマ患者以外への癌ペプチドやサイトカインを含む癌免疫療法はこれまで数々の臨床治験が行われたが良い結果が得られていなかった.最近,ヒト化抗PD-1抗体,抗PD-L1抗体,抗CTLA-4抗体による新規の癌免疫療法がメラノーマや肺がんの治療に効果があることが報告された.特に,抗PD-1抗体,抗PD-L1抗体が扁平上皮がんを含む肺がん患者に有効であったことが注目されている.しかしながら,30%以下の肺がん癌患者にしか効果がない.つまり,non-responderが多数であることが大きな疑問である.今後,科学的な研究が進むことを期待している.
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